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▼ 元帥の危急編1

ケビン・イエーガー元帥が亡くなった。その影響で、エクソシストたちはそれぞれ世界各地に散らばる元帥の護衛に派遣されることとなった。もちろん、わたしも例外ではない。エクソシストの中でも最も強いはずの元帥が殺されてしまったのだ。わたしなんて、きっとすぐに殺されてしまう。カタカタと震える身体を抱きしめる。行きたくない。わたしは元帥に師事していたわけでもないんだから、教団に残ってはだめなのだろうか。しかしコムイさんは無情にも、わたしも例外なく元帥捜索に出るように、と告げる。同じように呼び出されていたのはラビとブックマンだった。任務先で怪我をしてしまったリナリーとアレンくんと合流してクロス・マリアン元帥を探す。それが与えられた任務である。アレンくんと一緒、と喜んだのもつかの間。怪我って、どういうことだろうか。時間がないから移動しながら説明するよ、と言うコムイさんについて列車に乗る。アレンくんとリナリーは、ふたりで同じ日を繰り返しているという街に向かってイノセンスを発見。適合者も保護したが、AKUMAとノアの一族に襲われて重傷らしい。ノアの一族って、なに?アレンくんとリナリーがやられちゃうほど、強いの?ぞわり、と背筋が粟立った。

「アレンくんは、大丈夫なんですか」

「怪我は酷いみたいだからブックマンに診てもらう予定だよ。でも彼は寄生型だから、普通よりも治りが早いはず」

「でも、そんな怪我したのに、」

このまま、任務につくと言うのか。リナリーだって怪我こそしていないものの神経攻撃を受けて意識不明だという話なのに。わたしたちエクソシストだって、人間なのに。そんな道具みたいに使うの。コムイさんは、悲しそうに笑ってごめんね、と言った。状況が状況だから君たちに行ってもらうしかないんだ。コムイさんだって、妹のリナリーが心配に決まってる。でも、エクソシストだから。本当に、わたしたちが神様に選ばれた使徒だと言うのなら、なぜこんなにも苦しまなければならないのだろうか。

「……なんか、なまえって雰囲気変わった?」

それ以上何も言えなくて黙り込んでいると、静観していたラビがそう口を開いた。

「なんか前は自分の思ってることなんて何も言えませんって感じだったじゃん」

探るような瞳に、萎縮する。前からわたしは、ラビの貼りつけたような笑顔が苦手で、怖かった。わたしが変わったというのなら、それはきっとアレンくんのおかげなのだ。アレンくんは、守ると言ってくれた。こわいことは、おかしいことじゃないんだよって。わたしを受け入れてくれた。ぎゅ、と手のを強く握りしめると、ブックマンがラビの頭を力強く叩く。

「いってえええ!なにするんさ!パンダジジイ!!」

「申し訳ない、なまえ嬢。無神経な小僧は儂が言い聞かせておこう」

ブックマンに軽く頭を下げて、そこから先はコムイさんとブックマンの話をただただ聞いていた。アレンくんとリナリーが入院する病院へと足を踏み入れる。コムイさんが真っ先にリナリーの元へ向かったので、邪魔にならないように先にアレンくんのところに向かうことにした。アレンくんは病室のベッドで眠っていた。傷だらけで、左目が潰された、という報告通りその特徴的な左目には包帯が巻かれている。アレンくんとリナリーが発見したイノセンスとその適合者は怪我こそあったものの、アレンくんとリナリーに比べたら全然軽傷だった。アレンくんの守る、とはこういうことなのだろうか。自分がボロボロになって、犠牲になって。わたしに、それを背負う覚悟なんてない。ぎゅ、とアレンくんの右手を握ってから、病室を出る。もういいんさ?と扉の前で待機していたラビが尋ねてくるが、これからアレンくんにはコムイさんによるイノセンスの修理が待っている。それにはわたしは邪魔だろうし、そもそもあんな風にボロボロになったアレンくんを見ているの、つらい。リナリーの病室に入ってコムイさんと交代する。名残惜しそうにしながらもコムイさんはアレンくんの元に向かって行った。驚くほどに病室が書類に埋もれてるんだけど、大丈夫なのだろうか。コムイさんどれだけ仕事を溜めているの。なんとか書類を避けてベッドの横の椅子に座る。眠っているリナリーには怪我は見当たらず、今にも目を覚ましていつものようにおはよう、と笑いかけてくれそうだった。しばらく手を握っているが、反応を示す様子はない。アレンくんの修理を終えたコムイさんが、リナリーの病室に戻ってきたため、慌てて立ちあがる。

「アレンくん、目を覚ましたよ」

ありがとう、と言ってわたしが空けた席に座ったコムイさんが、笑顔でそう告げた。そうですか、と告げてリナリーの病室を出た。目を、覚ました。アレンくんが。よかった。ぎゅう、と両手を強く握りしめて、うずくまる。看護師さんに具合が悪いんですか、と声をかけられて慌ててちがいます、と立ち上がったものの、まだアレンくんに会う勇気がなかった。わたしはアレンくんと、どう接していけばいいのだろうか。病院の待合室でぼーっと時間を潰す。すぐに会いに行かないなんて、薄情に思われるかな。外の空気を吸いに病院を出ると、入り口付近で雪だるまを量産している見たことのある赤毛と白髪がいた。え、あんなに大怪我したのに何をやっているの?かと思えば、ラビに何やら怒った様子のアレンくんがひとりでずかずかと街に歩いていってしまった。

「ちょっとラビ……アレンくんになに言ったの?」

「べつに〜?つーかもしかしてやばい?」

「え?」

「あいつ、今左目使えないんだろ?」

そこで初めて気がつく。AKUMAを見分けることのできたアレンくんがきっと、周りの人がAKUMAかどうかを疑うことを知らない。アレンくんが弱いと言っているわけではないけれど、左目がない戦い方を知らないアレンくんが危険なことには変わりない。追いかけなきゃ。戦闘向きではないわたしのイノセンスでアレンくんをどこまで助けられるか分からないけれど。本当はAKUMAがいるかもしれない場所に向かうなんて嫌だ。怖い。だけど、今追いかけないでアレンくんが死んだりしたらわたしは、一生罪悪感を抱いて生きていくことになる。そんなの重すぎて、わたしには背負えない。ラビと一緒にアレンくんを追うと、ちょうど子供の姿をしたAKUMAがアレンくんの頭に銃口をつきつけているところだった。咄嗟にイノセンスを発動して、わたしの盾でAKUMAを突き飛ばし、ラビの槌が破壊する。

「あっぶな〜…なーにやってんだよアレン」

「アレンくん、怪我は大丈夫?」

茫然とした様子ではあるが、まだ無事だったようだ。よかった、と胸を撫でおろすと、周囲が人殺し!人殺しだ!と叫んで騒ぎになっていた。コートを着てこんな人ごみを歩いていたら狙われるのは当たり前なのに、アレンくんはどうしてこんなところに。人を見たらAKUMAだと思え、と言うラビに謝りながら立ちあがったアレンくんを上から下まで確認する。本当に、目を覚ましてる。この街に到着してすぐに見た、ベッドに横たわるアレンくんが頭を過った。

「なまえとラビは今…どうして…」

「ん?」

その時、ドン、とすごい衝撃に襲われる。発動していたイノセンスでアレンくんとラビを庇って衝撃を受けると、さんきゅ、と言って反撃するためにわたしの傍から離れたラビがあちち!と悲鳴を上げた。わたしたちの上にいるレベル2のAKUMAが投げてきた隕石のようなものは、どうやらすごい熱を発しているらしい。わたしのイノセンスは、攻撃だけでなく熱や寒さ、臭い、音といった、害になるものを遮断するから、わたしの後ろにいる分には感じなかったらしい。大槌小槌を大きくして、わたしとアレンくんに頭を下げさせたラビが建物ごとAKUMAを破壊する。ちょっと豪快すぎるというか、コムイさん大変になっちゃうのではないだろうか。その後も次から次へと襲いかかってくるAKUMAに、ひえ、と情けない声を出しながら盾でガードしつつ逃げ回る。戦いやすい場所に移動するラビとアレンくんになんとか着いていくと、開けた場所で周りを囲まれる。人間なのかAKUMAなのか。まだ迷っている様子のアレンくんをカバーするようにガードしつつそのままの勢いで盾でAKUMAを殴り付ける。幸いなことにレベル1ばかりだったので何体かは破壊することができたが、戦闘向きではないので限界があった。アレンくんをちらりと見ると、女性に声をかけているところだった。あぶない、と咄嗟に駆け出そうとすると、その前にアレンくんの左手がAKUMAを破壊する。何か吹っ切れたように戦い始めたアレンくんに、こそこそと邪魔にならないところでイノセンスを使って隠れ、逃げる。ふたりならきっと大丈夫だろう。わたしはうっかりレベル1にも殺されかねない。戦わなくていいなら戦いたくない。

「何体壊った?」

「30………くらい」

「あ、オレ勝った。37体だもん」

「……………そんなの数えませんよ」

なんでも記録するのがクセなのさ〜とさすがにぐったりしたふたりが地面に倒れこんで話しているところにそろり、と近づくと、なまえは?と記録するのがクセな赤毛に問いかけられる。話振られないようにこっそり近づいたのに。小さい声で3体、と答えると、ラビが半目でわたしを見た。

「なまえはずっと逃げてばっかだったかんな〜」

「なまえはか弱い女性なんです。仕方ないでしょう 」

「そんなんでエクソシストやんのってキッツイよなー」

庇ってくれるアレンくんに全力で頷くも、ラビは関心なさそうに温度を感じない声でわたしを抉る。そうだよキツいよ。だからやめたい。逃げたい。興味がないなら、なにも言わないで。

「ま、べつにいーけどさ。合わせて70か…単純にオレらだけに向けられた襲撃だな」

負傷しているアレンくんとリナリーを狙っての襲撃だろうか。それとも、コムイさんの言っていた、元帥の死に関係があるのだろうか。リナリーたちが残っている病院は大丈夫だろうか、とアレンくんが身を起こそうとして、痛て!と悲鳴を上げた。

「だ、大丈夫?アレンくん」

慌てて駆け寄って、アレンくんの身体を右側から支えて起こす。たぶん、左はまだ治っていないのだ。あんなにボロボロだったから当たり前なのに、わたしは逃げるばかりで全然助けてあげられなかった。アレンくんの右腕から感じる体温に、ちゃんと、生きてる。そう実感して、う、と嗚咽が漏れ、ぼろぼろと涙が次から次へと零れ落ちる。いきなり泣き出したわたしを見て、アレンくんとラビが慌てたように手足をわたわたと忙しなく動かした。

「な、泣いてる!?」

「アレン何泣かせてるんさ!」

「え!?僕ですか!?」

「とりあえず涙を拭くさ!」

ば、と目の前に差し出されたラビのマフラー。どうしてマフラー。さすがに人様のマフラーで涙を拭くことはできない。ハンカチも病院に鞄ごと置いてきてしまった。だいじょぶ、と自分の手でごしごしと目をこすると、アレンくんの手に止められてしまう。

「乱暴に擦ると目が腫れちゃいますよ」

アレンくんに優しく拭われる目元。その感触にまた涙が出た。なまえは泣き虫だなぁ。苦笑するアレンくんのコートを握って、少し引っ張る。

「アレンくんが、いきてて、よかった」

驚いたように目を見開くアレンくんと、そんなわたしたちを、先ほどの態度はなんだったのかと聞きたくなるくらい興味深そうに見るラビ。止まらない涙のせいで、途切れ途切れになる言葉。それでも、アレンくんに必死に伝える。しなないで。守ってくれなくていいから、頑張るから、アレンくんも生きていて。黙ってわたしの話を聞いていたアレンくんが、優しく笑ってわたしの頭を撫でた。

「じゃあ、わかりました。僕がキミを守る。それは変わらないけれど、僕が無茶して怪我しないように、なまえが、僕のことを守ってください」

わたしは、臆病だし、すぐ逃げるし、戦闘にも向いてない。できることなんて、全然ないのに。盾の対AKUMA武器を持っているのに、他人を守るなんて考えたこともなかった。だって、この盾は、わたしを縛り付ける足枷のように思っていたから。だけどこの枷が、初めてわたしを受け入れてくれたアレンくんを守る力になれるのならば。こく、と首を縦に振ると、アレンくんはちょっと照れたように微笑んだ。

「ありがとう、なまえ。僕のために泣いてくれて」

アレンくんの、ため。わたしには、この涙が本当にアレンくんのためのものなのか、それとも自分のためのものなのかわからない。だけど、アレンくんな喜んでくれるのならば、アレンくんのためってことでいいのだろう。うん、と涙はそのままにアレンくんに笑いかける。きっとぐしゃぐしゃで下手くそな笑顔になっていると思う。それでも、アレンくんはすごく嬉しそうだった。

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